ベジタリアンやヴィーガンという言葉は、もう特別な食習慣じゃなくなった。街に出ればプラントベースのカフェやメニューが並び、スーパーにも代替肉や豆乳製品が普通に並んでいる。環境意識や動物倫理から選ぶ人もいれば、単純に「健康のために肉を減らしたい」と考えて取り入れる人もいるだろう。
でも、ふと立ち止まって考えると「ベジタリアンとヴィーガン、健康面でどう違うんだろう?」という疑問にぶつかる。どちらも菜食という点では同じだが、栄養面やリスクの度合いには大きな差がある。実際、最新の研究は心血管疾患リスクやがんリスクの低下といったメリットを示す一方で、骨密度低下や特定栄養素の不足といった課題も浮かび上がらせている。
この記事では、ベジタリアンとヴィーガンの定義から出発して、共通する健康上のメリット、異なるリスク、そして実際に取り入れるときの工夫までを整理する。研究結果と現実生活の視点を両方踏まえながら、「自分に合う菜食のかたち」を考える手がかりにしてほしい。
目次
ベジタリアンとヴィーガンの基本的な違い
ひとくちに「菜食」と言っても、その中身には幅がある。まずはベジタリアンとヴィーガンの定義を整理しておこう。
ベジタリアンとは
ベジタリアンは「肉や魚を食べない人」と説明されることが多い。ただし一口にベジタリアンといっても、スタイルは複数に分かれる。
- ラクト・オボ・ベジタリアン:乳製品と卵は食べる
- ラクト・ベジタリアン:乳製品は食べるが卵は食べない
- オボ・ベジタリアン:卵は食べるが乳製品は食べない
- ペスコ・ベジタリアン:魚は食べるが肉は食べない(厳密にはベジタリアンの定義から外す研究もある)
つまり「肉を避けつつ、どこまで動物性食品を許容するか」でスタイルが変わるのがベジタリアンだ。
ヴィーガンとは
ヴィーガンは、さらに徹底して動物性食品を一切とらない。肉・魚だけでなく、卵・乳製品・蜂蜜も避け、完全に植物性に基づく食事を選ぶ。ここには倫理的な理由(動物の権利や環境配慮)が含まれることも多く、「食事スタイル」というより「ライフスタイル」の一部として実践されるケースもある。
広がりの背景
近年、世界的にプラントベース食は拡大している。
- 環境面:温室効果ガス排出や水資源の削減につながる
- 倫理面:動物福祉の観点
- 健康面:生活習慣病予防や長寿への関心
日本でも代替肉やプラントベース食品が増え、都市部ではヴィーガン対応レストランも珍しくなくなってきた。
共通する健康効果|プラントベースの強み
ベジタリアンもヴィーガンも、共通して「植物性食品を中心に食べる」という点がある。この特徴は、世界中の疫学研究で一定の健康効果として裏づけられてきた。
心血管疾患リスクの低下
観察研究では、プラントベースの食事を続ける人は心疾患のリスクが15〜21%低いと報告されている。肉や加工食品に多い飽和脂肪酸を避け、代わりに豆類やナッツ、野菜から不飽和脂肪酸や食物繊維を摂ることで、コレステロールや血圧の改善につながると考えられている。
がんリスクの低下
大規模コホート研究では、ベジタリアンでがんリスク12%低下、ヴィーガンでは24%低下というデータもある。特に消化器系のがんリスクが低い傾向が報告されており、食物繊維や抗酸化物質の多さが寄与していると見られる。
体重管理と肥満率の低下
プラントベース食を実践する人は、平均してBMIが低く、肥満率も少ない。これはカロリー密度が低い野菜や豆類を多く食べることで、満腹感を得やすく、自然と摂取カロリーが減るためだ。ダイエットのために菜食を選ぶ人が多いのも、この点に根拠がある。
腸内環境の改善
食物繊維やポリフェノールが豊富な食事は、腸内細菌の多様性を増やす。これが腸内環境を整え、免疫や代謝機能に良い影響を与えることが分かってきた。腸内フローラの研究では、菜食者の腸内は短鎖脂肪酸(酪酸など)を産生する細菌が多く、炎症を抑える方向に働いていることが確認されている。
プラントベース食に共通する健康効果
| 効果 | 主な知見(研究報告) | ポイント |
|---|---|---|
| 心疾患リスク低下 | リスク15〜21%減少(観察研究) | 飽和脂肪酸が少なく、食物繊維や不飽和脂肪酸が多い |
| がんリスク低下 | ベジ12%、ヴィーガン24%減少 | 抗酸化物質やフィトケミカルの摂取が寄与 |
| 体重管理・肥満率低下 | BMI低め、肥満率低い傾向 | カロリー密度の低さと食物繊維の多さ |
| 腸内環境改善 | 菜食者は短鎖脂肪酸産生菌が豊富 | 炎症抑制・免疫調整へのポジティブな影響 |
ポイント整理
- ベジタリアン・ヴィーガン共通の強みは「病気リスクの低下」に集約される
- 効果の背景にあるのは「高食物繊維・低飽和脂肪酸・抗酸化物質」
- 一方で、効果の大きさには「食習慣全体の質」が影響しており、ただ肉をやめるだけでは十分ではない
健康面での違い|ヴィーガンが直面する栄養リスク
ここまで見てきたように、プラントベースの食事には共通して健康上のメリットがある。けれども「ヴィーガン」と「ベジタリアン」には大きな違いがある。それは動物性食品をどこまで完全に排除するか、という点だ。
ベジタリアンは乳製品や卵を摂ることで、いくつかの栄養素を動物由来から補える。一方でヴィーガンはそれをすべて断つため、栄養素の欠乏リスクが高まりやすい。ここでは最新の研究から整理してみよう。
ビタミンB12
ヴィーガンにとって最も重要な課題のひとつ。B12はほぼ動物性食品にしか含まれず、欠乏すると貧血や神経障害につながる。
- ヴィーガンの半数以上がB12欠乏状態にあるとの報告もある。
- ベジタリアンでもリスクはゼロではないが、卵や乳から一定量を補える。
👉 サプリメントや強化食品による補給が必須。
カルシウム・ビタミンD
乳製品を摂らないヴィーガンは、カルシウムとビタミンDの不足リスクが高い。
- ヴィーガンは骨密度が低く、骨折リスクが高いというメタ解析もある。
- ビタミンDは日光でも合成されるが、現代の生活では不足しがち。
👉 豆乳や植物ミルクの強化食品、日光浴、必要に応じてサプリで補うことが推奨される。
鉄・亜鉛
植物性食品に含まれる鉄は「非ヘム鉄」で、動物性食品の「ヘム鉄」と比べて吸収率が低い。亜鉛も同様に吸収効率が低いため、不足しやすい。
- 特に女性や成長期には鉄不足が顕著になりやすい。
- ビタミンCを一緒に摂ると吸収が改善される。
👉 発酵食品や調理法の工夫で吸収効率を上げることが鍵。
オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)
魚を食べないヴィーガンは、EPAやDHAが不足しやすい。
- 植物から摂れるのは主にALA(αリノレン酸)で、体内でEPA/DHAに変換されるが効率は低い。
- 脳や神経系の健康に関わるため、長期的にはサプリで補う人も多い。
👉 アマニ油やチアシード、海藻由来のサプリが現実的な解決策。
ベジタリアンとヴィーガンの栄養リスク比較
| 栄養素 | ヴィーガン | ベジタリアン | 工夫の例 |
|---|---|---|---|
| ビタミンB12 | 高リスク | 中リスク | サプリ・強化シリアル |
| カルシウム・ビタミンD | 高リスク | 中リスク | 豆乳強化製品・日光・サプリ |
| 鉄・亜鉛 | 中リスク | 低〜中リスク | ビタミンCと同時摂取・発酵食品活用 |
| オメガ3脂肪酸 | 高リスク | 中リスク | アマニ油・チアシード・海藻サプリ |
研究が示す現実
2020年代のレビュー研究でも、「栄養素の補給計画がなければ、ヴィーガンは長期的に骨や神経系のリスクが高まる」と指摘されている。一方で、適切に設計されたヴィーガン食は健康的であり得るという点も強調されている。つまり「リスク=不健康」ではなく、「リスク=設計が必要」ということだ。
ライフステージ別の注意点
菜食のメリットは多いけれど、年齢やライフステージによっては注意が必要だ。特に完全菜食(ヴィーガン)は「誰にでも安全」というわけではない。
子ども・成長期
成長期は脳や骨、筋肉が急速に発達する時期。栄養素の不足は発達や学習能力に影響する可能性がある。欧州の栄養学会は、ヴィーガンを子どもに実践させる場合は必ず専門家の管理下で行うように推奨している。ビタミンB12やカルシウム、鉄、ビタミンDの補給は必須だ。
妊娠・授乳期
胎児や乳児の成長にとって、B12やDHAは欠かせない。これらが不足すると神経発達に悪影響を及ぼす恐れがある。ヴィーガン妊婦には医師の監督下での栄養補給が推奨されている。
高齢者
高齢期は筋肉量や骨密度の低下が進む。菜食そのものは生活習慣病予防には有効だが、タンパク質やビタミンD不足により、サルコペニアや骨折リスクが高まる恐れもある。乳製品や大豆製品、サプリメントをうまく取り入れることが大切になる。
👉 ライフステージごとに「メリットを享受するためには栄養補強が不可欠」と覚えておきたい。
現代での取り入れ方と工夫
では、日常生活にベジタリアンやヴィーガンの要素をどう取り入れていけばよいのか。ポイントは「制限」ではなく「設計」だ。
タンパク質をしっかり確保
- 大豆製品(豆腐・納豆・テンペ)
- 豆類(レンズ豆・ひよこ豆)
- ナッツや種子類
これらを組み合わせることで、必須アミノ酸をバランスよく摂取できる。
サプリメントの活用
ヴィーガンに必須とされるのがビタミンB12。加えて、ビタミンD・カルシウム・オメガ3(海藻由来)も補うと安心。サプリを「不足の穴を埋めるツール」と割り切るのが賢いやり方だ。
栄養吸収を高める工夫
- 鉄はビタミンCと一緒に摂る(例:豆+野菜+柑橘類)
- 亜鉛は発酵食品で吸収率が上がる
- 調理法も重要(煮込みや発酵で吸収しやすくなる)
多様性を意識する
「肉をやめる」ではなく「植物性食品を増やす」と発想を変えると、食卓はぐっと豊かになる。季節の野菜や果物を取り入れ、穀物や豆類も変化をつければ、自然と栄養バランスが整っていく。
実践チェックリスト
| 工夫ポイント | 実践例 |
|---|---|
| タンパク質確保 | 豆腐+雑穀+ナッツを毎日取り入れる |
| B12補給 | サプリまたは強化シリアル |
| カルシウム強化 | 豆乳ヨーグルト+青菜+日光 |
| オメガ3補給 | アマニ油・チアシード・海藻由来サプリ |
| 栄養吸収を高める | 豆+ビタミンC食品、発酵食品を組み合わせ |
| 食の多様性 | 季節野菜・果物をローテーション |
まとめ|「どの食事を選ぶか」より「どう続けるか」
ベジタリアンもヴィーガンも、最新研究は確かなメリットを示している。ただし「不足リスク」に目をつぶると、長期的には不健康に傾く危険がある。
大事なのは「どの食事法を選ぶか」より、「どう設計し、どう続けるか」。
栄養を補いながら、心地よく実践できる形を見つけることが、菜食を健康の力に変えるカギだ。
進んだ距離じゃなくて、「歩こうと思えた気持ち」がすごいんだよ。きみが今日、肉を減らして野菜を一品多く選んだなら──それは未来の自分への贈り物になっている。





